ARM系プロセッサが躍進できた理由
前回の記事で、インテルAtomプロセッサがARM系プロセッサに惨敗したことを書いたのだが、今回はなぜARM系プロセッサが躍進できたのかを書きたい。
ARM系プロセッサとは何か?
ARM系プロセッサとは、英ARM社が開発したCortex AシリーズなどのプロセッサIPを搭載したプロセッサを指す。
IPとはIntellectual Property=知的財産のことだ。つまりARMが提供するプロセッサIPは影も形も持たない概念のような存在。具体的には何万行かのコードの集合である。ARMはそのようなプログラムコードを売って、ユーザーである半導体メーカーはプログラムコードに従って半導体を作る。こうしてできたのがARM系プロセッサという訳だ。
ちなみにARMが提供するコードは暗号化されており、半導体メーカーは何が書いてあるのかも分からない状態で、プロセッサを実装する。端から見れば非常に不思議な光景であるが、プロセッサは今や200万ゲートのトランジスタが使用されている。ここまでくると出来上がったトランジスタの接続を見たところで、何がどうなっているかを理解することは実質不可能なのだ。
ARM系プロセッサの強み①
ARMのようなソフトIPを用いる利点は数多くある。一つ目はシステムの集積化の自由度が上がる点である。
プロセッサの処理速度が年々高速化しているのは周知の通りだが、折角プロセッサのスピードを上げてもメモリがついていけなかったり、IO、GPUがついていけなければ、システム全体のスループットは大きく低下する。
その為、高速に動かしたい部品は、なるべくプロセッサの近くに置くことが必要になる。プロセッサに最も近いところはどこかというと、半導体それ自身の中である。こうしてプロセッサは周辺機能をどんどん取り込んだ。これは半導体の微細化プロセスの進展ともマッチした。
システムの集積化は動作の高速化以外にもメリットがある。例えば、コストダウン。2つに分かれていたチップが1つに統合されれば、重複する機能やインターフェース回路を削減できる。つまり、実装に必要な面積が下がる分コストが下がる。また、2チップ作る手間が1チップの製造でよくなるので製造コストも下がる。
さらに、回路が削減されることにより、電力も低下する。モバイル系ではバッテリー容量が極端に制限される。電力は常に課題となるため、ローパワーソリューションは常に求められる。
このように集積化には多大なる恩恵があるものの、大きな問題がある。何を集積すればいいの?ということだ。必要となる周辺機能というのはユーザーによって大きく異なる。
具体例でいうと、ゲーム用プロセッサとして、最適なメモリのインターフェース(バス幅・メモリの種類・速度)をどう決めればいいか?という問題である。ゲームの開発環境やディスプレイ環境など、個々のゲームメーカーによって必要な環境は異なっており、半導体メーカーが予め知り得ない情報である。
ラインナップである程度は補えるが、すべては難しい。さらに特注の仕様を求めるのは大口ユーザーであり、需要は大きい。そうしたユーザーにとって、ソフトIPは非常に魅力的だった。
長くなったので、続きは次回で!